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4月スタートの「相続登記義務化」は、人によっては悪夢になりうる

2024.03.12

4月スタートの「相続登記義務化」は、人によっては悪夢になりうる

1stERA角江です。

4月1日から、相続不動産に関して大きな改正があることをご存じだろうか。相続が発生して親などから譲り受ける不動産について、登記することが義務化されるのだ。

背景となったのは、「所有者不明土地問題」です。

民間の識者らで構成される「所有者不明土地問題研究会」の調査によれば、2016年において、全国の所有者不明土地の面積は410万ヘクタールにおよぶ。九州全土の面積367.5万ヘクタールを凌駕する規模だ。

さらに同研究会の推計によれば、何の対策も講じないまま推移すると、2040年にはその面積は720万ヘクタールまで拡大し、国土面積の2割、北海道全土の面積に匹敵する規模に膨れ上がるという。

相続の際、相続人が所有権移転登記を行わないことが、こうした「名無しの権兵衛」の土地が増える要因の1つになっている。

相続で得た大切な財産である不動産を、多くの相続人が登記をしていない。そのために登記簿謄本を閲覧しても、現在の所有者が誰であるのか判然としない。相続人はなぜ登記を積極的に行わないのだろうか?

相続登記が進まなかったワケ

そもそも登記とは、法律上では「第三者対抗要件」にすぎない。つまり、当該不動産の権利を主張する者が現れた場合、その者に対して、自分が所有をしていることを示して「対抗」することができる、というものだ。

登記はこれまで義務ではなかったので、必ずしも行われてこなかったのが実態だ。

大都市圏にあって不動産価値が高いものであれば、いざというときに備えて自分の権利を主張、対抗できるようにしておくことにはメリットを感じやすいだろう。

しかし、たとえば親から先祖代々のものだからと言って引き継いだ地方の山林、あまり買い手がいそうにないような不動産などは、あえて登記をしておこうという動機付けがそもそもなかった。

PHOTO:Haru/PIXTA

さらに登記が進まない理由としては、登記した際には「登録免許税」が課されることが挙げられる。

税率は固定資産税評価額の0.4%。地方の土地であっても、面積が大きければ意外と金額は膨らむ。登記にあたっては手続きも複雑で、戸籍謄本や登記事項証明、住民票などの必要書類を揃えなければならず、少なからず費用もかかる。

手続きは自身でもできるが、司法書士などに依頼すれば、報酬を支払わなければならない。そうした費用をかけてまで、自分の所有を表明する必要を感じない不動産については、登記が行われずにきたのである。

「所有者不明土地問題」とは

そのうち、相続が繰り返され、所有権がどんどん分散化、細分化され最終的に誰がどのくらいの権利を持っているのか、全容がつかめなくなってしまった。これが、「所有者不明土地問題」を引き起こしている。

道路を拡幅する、新設する際などの土地買収でも、当該土地を誰が持っているかわからず工事が進まない、土砂崩れなどの自然災害が発生し、修復工事、改良工事を行おうにも、真の所有者が不明なために関係者全員の同意が取れないなど、最近では所有者不明土地にまつわるさまざまな社会問題が勃発し、話題になっている。

こうした実情を踏まえ国は、不動産相続に際しての登記の義務化に踏み切った。2021年4月に不動産登記法が改正され、相続が発生した際には相続した土地建物について登記を行うことが義務となった。

東京法務局の啓発ポスター

具体的には「相続開始および所有権を取得したと知った日から3年以内に登記する」こととされている。遺産分割協議が3年以上の長期に及んだ場合でも「遺産分割が決定されてから3年以内に登記する」とされ、2024年4月1日から適用される。

義務化するということは、当然、違反すると罰則が適用されるということだ。どういう罰則かというと、10万円以下の過料が課せられる。

また登記後に氏名や住所が変わった場合には、変更手続きも義務化され、従わなかった場合には5万円以下の過料となる。

なお、これらのほか、オンラインで簡易的な手続きができるように省令を改正したり、ドメスティックバイオレンス(DV)被害者などへの配慮として、現住所以外の所在地を記載できる措置も設けられる予定だ。

過去の相続分にも遡及適用

今回の改正は、これだけにとどまらない。2024年4月以前に相続した不動産についても相続登記が義務化されるのだ。

つまり2024年4月以降になると、以前に相続した土地や建物についても、3年以内に相続登記を済まさなければならなくなった。対岸の火事といった話ではなく、全国民にとって、今手元にある不動産が登記されているのか、登記されていたとしても住所等が正確に記載されているかどうか確認しておかなければならなくなったのだ。

かつて親から譲り受けていた実家や山林などの不動産についても登記をしていないと、法律違反に問われるというのだからこれは穏やかではない。

特に地方では、親子同士で資産が自然に継承されてきた結果、いちいち登記を行っていない不動産が多数存在する。これらをすべて登記せよというのは、まるで豊臣秀吉が天下統一の際に行った太閤検地のようなものだ。

土地の所有者を明確にしていくためには絶対に必要な改正なのであるが、社会的な負担は膨大だ。

司法書士には「特需」だが…

ただ、若干の規制緩和もあった。これまでは相続登記の際は、当該不動産を相続するすべての相続人の同意が必要だった。

兄弟で相続していて、兄弟のうちの誰かがすでに亡くなっているようなケースもあるだろう。その場合は亡くなった人の相続人に権利は移っているはずだ。今となってはなかなか連絡がつかないというケースも多い。そのために登記をしたくてもできないということが多く存在した。

そこで今回の改正では、自らがすすんで、単独で自分の持ち分についてのみ登記できるようにして、登記しやすい環境づくりに配慮することになった。

2024年4月以降のこの改正は、登記実務を担当する司法書士などには商売繁盛の特需といえるが、すでに相続を受けた人たちにも対象を広げ、登記を義務化するのは、3年という期限も含めてかなり乱暴な措置ともいえる。

特に相続した不動産で代々、ちゃんと登記が行われてきていないものだと、登記をする際に過去の所有者の戸籍などをずっと追いかけていかなければならない。

たとえば戦後まもなくの相続発生以降、登記されていないような不動産だ。

実際に私自身、不動産プロデュース業の一環で都内でビジネスホテルの企画立案を行っていた際、計画地の隣地にお宮があり、この区画も一緒に開発できればとても良い計画になるので、所有者にアプローチを試みたことがある。

ところが当該土地の謄本を調べてびっくり。所有者は昭和27年に登記された女性名。記載された本人の住所は今では標記が変わった昔の町名。こうなるともはや専門家に頼んで相当数の時間をかけて調査していかなければならず、それ以上の探索はあきらめざるをえなかった。

国では一定の条件下であれば、期限内にできなくとも延長するなどの措置を施してはいるが、人によっては全く悪夢のような作業を要求される改正が4月から始まる。

自分が相続させようと思っている不動産、あるいは自分が相続できるはずの不動産、一度登記簿謄本に目を通しておいたほうがよさそうですね。

 

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