いつもお世話になっております。
片山です。
法人化している大家さんの節税ツールとしても活用されている「倒産防止共済(セーフティ共済)」。昨年末に発表された税制改正大綱で、大家さんに影響のある改正が盛り込まれました。
倒産防止共済は共済掛金を全額経費に計上できるメリットがあります。これまでは経費を増やしたいときに手軽に使えていましたが、今年10月以降は、経費計上ができる期間に制約が加わります。
「倒産防止共済」で800万円まで経費計上
倒産防止共済は本来、取引先が倒産した際に、連鎖倒産や経営難に陥ることを防ぐための共済制度です。
無担保・無保証人で、掛金の10倍(上限8000万円)まで借入れできるのが特徴です。掛金は月額5000円~20万円まで自由に選べ、途中で変更することもできます。総額800万円まで積立てることができます。
開業して1年以上事業を継続していれば誰でも加入でき、法人大家さんの場合は、掛金を全額経費に算入できます。
個人の場合も、事業所得者であれば経費にできますが、個人の大家さんは、事業所得者ではなく不動産所得者に該当するため、共済に加入はできますが、掛金を経費にすることはできませんので、ご注意ください。
解約した場合は、解約手当金を受け取れます。掛金を12カ月以上納めていれば掛金総額の8割以上が戻り、40カ月以上納めていれば、掛金の全額が戻ります。ちなみに、この解約手当金は全額収入となります。
以上が倒産防止共済の基本的な仕組みです。次に、税制改正の内容をみていきましょう。
5年半に1回しか使えない節税に
倒産防止共済は、利益が高くなりそうな年に加入し、掛金を全額経費にした上で、一定期間後に解約して加入し直せば何度でも使える点が節税面では便利な点でした。
ところが今回の改正で、解約の日から2年を経過する日までの間に支出する掛金については、再加入しても経費計上ができなくなります。
掛金を100%受け取るためには、加入期間が40カ月必要です。解約してから2年は経費にならないとなると、いったん満額を受け取ってからまた経費を取れるようになるまで、最短で64カ月(5年4カ月)かかることになります。
上限800万円までの使用を1回と数えると、今後は5年半に1回しか使えない節税になってしまうといえます。今後は使うタイミングをよく考えてから大事に使っていく必要があります。
この改正は、2024年10月1日以後の解約について適用される予定です。
すでに上限まで積み立てている方は9月までに解約して、再加入した方がよいかどうかも検討してみましょう。
メリットを最大化できるタイミングは?
改正後に節税で利用する場合は、利益800万円を境に税率が変わる、という法人税の仕組みを最大限に生かせるタイミングで利用することをおすすめします。
まず法人税の仕組みをお話すると、法人税の実効税率(法人税・住民税・事業税を合わせた税率)は、利益が800万円までは約23%、800万円を超えた部分は約33%と2段階に分かれています。
ということは、利益が800万円を超える年に、800万円を超えて高い税率が適用される部分をカットするために掛金を支払い、経費を多く計上する。
そして、その後、利益が800万円を下回る年に解約して、解約手当金を収入に計上すれば、解約手当金に対しては、800万円以下の低い税率を適用させることができます。
具体例でみていきましょう。
例えば、毎年800万円くらいの利益が出ている法人が、今期は物件を売却したため、追加で売却益が240万円発生し、利益が1040万円に増える見込みだったとします。
この場合の法人税等は、下記のように800万円を境に分けて計算します。
800万円×23%=184万円
240万円×33%=79万円
合計263万円
では、今期の決算直前に、倒産防止共済に加入して、月額掛金の最大額20万円×12カ月=240万円を一括払いしたとします。
掛金を1年分前払したことになりますが、1年分までの前払であれば、支払時に全額経費にすることができます。
共済加入により、利益は1040万円-共済掛金240万円=800万円となります。したがって法人税等は、800万円×23%=184万円となります。共済加入により、79万円の節税ができたことになります。
その後、解約した場合は解約手当金は収入となり、法人税が課されます。
そこで、40カ月経過後で、大規模修繕による経費が発生して利益が少なくなる年に解約します。
大規模修繕費が240万円だった場合、利益が800万円-240万円=560万円、法人税等は560万円×23%=129万円となります。
この年に、共済を解約して解約手当金を受け取ります。説明を分かりやすくするために、掛金240万円をそのまま解約手当金として受け取ったと仮定します。
解約手当金と合わせると、利益は560万円+解約手当金240万円=800万円となりますので、この場合の法人税等は、800万円×23%=184万円です。
つまり、解約ありの場合は納税額が55万円増えることになります。
共済加入時は79万円節税しましたが、解約時には55万円の追加納税が必要となりますので、純粋な節税額は、その差額の24万円ということになります。このように法人税の税率差を利用した節税が効果的といえます。
また、通常は掛金の最大額は、月額20万円×12カ月=240万円ですが、期首の時点で今期の利益が多くなることが分かっているならば、期首から20万円ずつ11カ月かけていき、最後の12カ月目にそこから先1年分を前払いすることができます。
そうすると、20万円×11カ月+20万円×12カ月=460万円を今期の経費に計上することができます。あらかじめ利益が大きくなることが予想される場合は、このような方法も検討してみてください。
なお、共済を使用する場合は、資金繰りにも注意してください。
掛金の支払いは、共済への積立ではありますが、解約するまでは手元から一時的に(元本割れしないためには40カ月以上)お金が無くなることになります。
先ほどの例では、掛金支払時には、79万円の税金が減りましたが、そのために、240万円のお金が手元から一時的に無くなり、資金繰りが厳しくなる恐れがあります。
手元にある資金にどのくらい余裕があるか、どのくらい節税したいかを検討したうえで、掛金の金額を決めるのがよいでしょう。
節税以外にもある倒産防止共済の使い道
・修繕積立金として利用する
先ほどの例では、節税の面から大規模修繕の年に解約する方法をお話しましたが、そうではなく最初から大規模修繕の積立金として、倒産防止共済を利用する方法もあります。
将来の大規模修繕に備えて、資金をプールするために新たに銀行口座を設けて、銀行預金に積み立てしたとしても、簡単に他の用途に使用できてしまいますし、金利もほとんどつかないと思います。
倒産防止共済に加入すれば、掛金の支払いは積立金となります。40カ月経たないと元本割れするため、簡単には解約できず貯金することができます。
修繕積立金を積み立てることが目的ですが、ついでに経費を取ることができますので、節税分を利息のようにとらえることができると思います。
また、実際に大規模修繕を行うための資金として使いたいときは、40カ月以上経っていれば、容易に解約してすぐに使うことができるのもメリットです。
・一時貸付金制度を利用する
倒産防止共済には、取引先が倒産していなくても、臨時に事業資金が必要な場合には、解約手当金相当額の95%を上限として借入できる制度があります。
例えば、掛金総額が800万円の上限の場合は、800万円×95%=760万円、つまり最大760万円まで借入できるということです。
借入期間は1年間で、期限に一括返済となります。金利は年0.9%で、一括で前払いとなります。
この一時貸付金も担保・保証人が不要なので、急に資金が必要な時に便利です。
解約手当金を使いたいけれど、解約してしまうと利益が増え、税金が増えてしまうので解約できないという時に、この一時貸付金を利用すれば、課税されずに資金調達することができます。
まとめ
倒産防止共済は、使い勝手のよい節税手法として利用されてきましたが、今回の改正で解約してもすぐに経費を計上できなくなりました。
国が運営して掛金を経費にできることを売りにしている制度なのに、そこに規制をかけるのは違和感を覚えますが、2024年10月以降はタイミングを見て大事に使っていく必要があります。
ただし、倒産防止共済の使い勝手が悪くなったからといって、外部への支出を伴うおかしな節税商品に手を出すのはおすすめできません。
以前にあった例としては、1台当たりの単価が安いドローンや足場レンタルを利用した節税スキームが流行りましたが、すでに税制改正で封じられています。
このようなスキームは、課税当局が目を光らせていますので、今後も封じられていく流れだと思いますし、節税額以上に外部にお金を支出してしまうと本末転倒です。
今後は、節税だけでなく、修繕積立金や一時貸付金として利用できるメリットを生かしながら、倒産防止共済を活用していくのがよいと思います。